2007
鈴木エージ
1983年・米国(193分)
*アカデミー編集賞・作曲賞・音響賞・音響効果編集賞
LD、VTR=ワーナーホームビデオ
=あらすじ・解説=1940年代後半まで、分厚い大気の中を飛行する航空機にとって"悪魔の壁"と呼ばれる存在が信じられていた。それは「操縦棹が効かなくなり、機体が激しく揺れ、空中分解を起こす」というマッハ1.0、時速1200キロの"音速の壁"である。その壁の向こう側にどんな世界が広がっているのか。物語はこの"音速の壁"に挑戦する飛行機野郎たちが、その後の50年代後半から始まる"大気圏の壁"へと挑戦するアメリカ初の宇宙飛行士となる7人の男達の姿を描いた「もう一つのアメリカ航空史」であり、現代の「神話」である。
このアメリカでの航空・宇宙開発の物語とオーストラリアのアボリジニに一体どのような接点があるのか。
何度目かの有人宇宙飛行の際、地球軌道上を周回する宇宙船との交信のため、西オーストラリアのパース近郊に位置すると思われるムチア(Muchea)に設置された通信基地に宇宙飛行士がひとり派遣される。到着した飛行士を出迎えたのは好奇の目で見つめる何人かのアボリジニであった。ここに何をしに来たのか、というアボリジニの問いに対し、宇宙飛行士はいかにも「未開の原住民」に話しかけるように「自分は宇宙飛行士であり、自分の友達がもうすぐこの上を通過するから、この皿(パラボナアンテナのこと)で話をするんだ」と説明する。そんな宇宙飛行士に対するアボリジニの青年の受け答えが絶妙である。
アボリジニ:「あんたらも(宇宙を飛ぶのか)?」
と、真っ白い髭を蓄えたアボリジニの一人を指す。(この顔には見覚えがある。確か前出『緑のアリが夢見るところ』でディジュを吹いていたワンドゥック・マリカではなかろうか)。
アボリジニ: 「あいつは知っている。月のこと、星のこと、銀河のことも。手を貸してくれるぜ。何でも知ってるんだから」
そうこうするうち周回を重ねる宇宙船にトラブルが発生し、大気圏への再突入に危機が訪れる。関係者の間に緊張が走る。通信基地の近くで焚き火をしていたアボリジニにもその緊張が伝わったようだ。低く響くディジュリドゥに合わせ、踊りが始まる。焚き火の火の粉が空高くどこまでも舞い上がっていく。やがてオーストラリア上空にさしかかった宇宙船が得体の知れない発光する粒子に包まれるという奇妙な現象に遭遇する。それはまるで小さな火の粉のようだ。トラブルに見舞われた宇宙船はその後、手動操作でなんとか無事に帰還することができるのだが、ひょっとすると…。
オーストラリアの上空を飛んだことのある者なら分かると思うが、上空から見る大地はアボリジニのドットペインティング(点描画)そのものだ。そう、確かに彼らははるか上空からこの大地を、地球を眺めているのである。(え)
(文・鈴木エージ)