2007〜
鈴木エージ/JADAメンバー(映画パート 一部執筆)
先住民アボリジニは、4〜5万年前からオーストラリア大陸に住んでいたといわれています(10万年前からという説もあるが定かではない)。農耕や牧畜をせず、狩猟採集・漁労という自然とともに暮らす原初的な生活を営んでいました。文字を持たないアボリジニは、「ドリーミング」と呼ばれる天地創造の神話や、歌や踊り、絵画によって独自の文化と伝統を変わることなく伝承し続けてきたのです。
白人の入植が始まるまでの200年ほど前のアボリジニの人口は約25万人と推定されていました。一部族当たり平均500人、約570ほどの部族が大陸中に点在していたといいます。しかし、植民化による迫害・虐殺により人口は激減。1901年の調査では約6万人まで落ち込みました。その後1920年頃から増加に転じ1987年時点で約23万人にまで回復していますが、それでもオーストラリア人口の約1.3〜1.4%にしかすぎません。また、500ほどあった言語も、現在も健在なものは10ほどしかないとされています。
1970年代以降の土地権の回復などアボリジニは、政治・経済的自立を目指すとともに、失われつつある自らのアイデンティティを取り戻すべく伝統的な生活スタイルや言語、儀式の復活、ディジュリドゥをはじめとした音楽や踊り、絵画などの芸術活動が活発に行われるようになってきています。2000年に開催されたシドニー・オリンピックのオープニング・セレモニーでも、アボリジニのパフォーマンスが大きく取り入れられていたのは象徴的です。
他に類を見ないアボリジニの独特な絵画は、驚くほど洗練された高い芸術性を持ち、また同時に自由奔放でピュアなエネルギーに満ちあふれています。
他の世界からほとんど隔絶された最果ての赤い大地に、何ものも持たず大地と共に狩猟採集生活を永々と営んできたアボリジニの人々が、世界の創造の物語「ドリーミング・ストーリー」を数万年に渡り、世代を越えて伝えてきたのは、文字ではなく、この絵と歌ででした。彼らにとって絵は、物語や情報を伝える「地図」であり、「巻き物」のような役割を果たしてきたのだと考えられます。そこには彼らの宇宙観や死生観、自然観、信仰、歴史、文化、伝統…あらゆるものが表現されているのです。
あらゆるものを「点」によって描写する「ドット・ペインティング(点描画)」。この独特な手法は、オーストラリアの先住民アボリジニの人達に特有のペインティング・スタイルのひとつです。これは元々、中央部の砂漠地帯で地面に描かれていた「砂絵」を、近年キャンバスにアクリル絵の具を使って描くようになってできたスタイルです。
また、点に替って「線」を交差させて描く「クロスハッチ(線画)」と呼ばれるオーストラリア北部に特有なペインティング・スタイルもあります。樹の皮を剥ぎ、その裏側に描かれることから「バーク・ペインティング(樹皮画)」とも呼ばれています。樹皮画では、炭の黒と白色の粘土、赤と黄色の岩をすり潰したオーカー(岩絵の具)の4色を用いて描かれています。この4色がアボリジナル・ペインティングの基本色となっています。
他に、動物の内蔵などをまるでレントゲンで見た時のように描く「X線画法」。よくロックペインティング(岩絵)に見られる手形を口に含んだ顔料を吹き付けて描く技法(ネガティブ・ハンド)などいくつもの独特な技法があります。
(文・鈴木エージ)
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